らくガキ日記

アモイ在住の兼業イラストレーターの日記

サウザンド•サニー号製作03 "射出成形技術”

 では製作の前に、今回もサニー号のキットをゆっくりと鑑賞していきたいと思います。

 前回のメリー号と同様に一つの金型で見事に4色の樹脂を成形しております。匠の技術は健在です(しかも、メリー号では3色でしたので進化しています)。カラフルなサニー号には打って付けの技術です。
 あと、細かいところですが、緑色の大きなパーツは芝生が生えている設定です。よく見ると表面に非常に細かい凸凹がありまして、これが見事に芝生を表現しています。この凸凹は放電加工機という電気の力を使って固い金型を加工する機械の加工面(業界用語では梨地面と言います。通常は加工後に磨かれて凸凹はなくなります)をそのまま活用して成形されたものです。あの凸凹の一つ一つは油の中で電極と金型材との数十ミクロンの距離間に発生した放電現象の痕跡なのです。金型の製作は切削技術だけではありません。放電加工や研削などのさまざまな加工技術が入り組んだ、総合格闘技のような技術体系なのです。

どうです。この芝生で昼寝をしてみたいとおもいませんか?

 木目の表現もメリー号と同じく見事に表現されております。メリー号のときにはエンドミルで彫ったと書きましたが、申し訳ありません。間違いでした。シボ加工という化学腐食(エッチング)を利用した特殊加工だそうです。金型業界の端っこでオマンマを食べさせていただいている身の上としてお恥ずかしい限りです。しかし、技術のすばらしさには変わりはありません。作る楽しみだけじゃなく、現在の本業の勉強もさせていただけるなんて、なんて有り難いキットなのでしょうか。

 なんと、フィギュアがメリー号のときよりも小さくなっています(写真中のボールペンの先端と比較してください)。メリー号よりもかなり大きな船の設定なのですね。大きな船を手に入れて良かったねっていっている場合ではなくて、どうやって塗装したら良いのでしょうか(涙)? 前回のメリー号のときでも騙し騙し色を塗ったのですが、今回はさらにハードです。モデルの設定上、仕方が無かったのでしょう。でも、成型品のできは抜群です。こんなに小さいのにルーペで拡大すると、ちゃんと表情があるのです。ここまで作り込んでいただけるのでしたら、まさに、”今ここで全力で戦わなかったおれに、あいつらと同じ船に乗る資格なんてあるはずはねェ(ワンピース ストロング•ワーズ 上巻)”っていう感じです。

 このような見事なキットを見ていると塗装するのが躊躇われる気さえいたします(立場上塗りますけど • • • )。塗装モデルと未塗装モデルを二つ並べて悦に入りたいと夢想するモデラーは私一人ではないはずです。

 今日本の金型製作会社は、中国を中心とした低価格を武器とした競合相手の台頭により苦しまされています。それに加え、今回の東日本大震災の影響で、多くの会社が廃業に追い込まれています。 私は現在、中国の金型業の方たちをサポートすることで生計を立てている状況にあります。日本の金型業界に多くのことを言う資格はありませんし、私自身、いつかは解決しなけばいけない自己矛盾を抱えています。でも、できれば、このブログを見ていただいた方に分かっていただきたいことがあります。このサウザンド•サニー号のキットの発売にあたり、厳しい状況の中、日本のお家芸である金型業界を守るために必死にたたかっている方たちがいるということです。私にとってその姿は知恵と勇気とロマンをもって強敵に立ち向かう”麦藁の一味”そのものなのです。(おわり 4/24)


参考文献
ONE PIECE STRONG WORDS 上巻 解説 内田樹 集英社新書


参考URL サウザンド•サニー号のシボ加工の記載
http://onepiece-jyoho.seesaa.net/article/192506900.html

参考URL 株式会社モールドテックジャパン殿のシボ加工の説明
http://www.mold-tech.jp/texturing.htm

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本日もらくガキ日記においでいただき、ありがとうございました。
次回から製作にはいりますよー